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純の恋人
第6章 マスカレード
本人に悪気がなさそうなだけに、私はどう返したらいいか分からなくなる。一人暮らしの女性の部屋に、男性が泊まる。それが一般的でない事は、今も確かなはずだ。ご飯を食べるなんて問題じゃない。そんな事イドさんが知ったら、たとえやましくなくても傷つくに決まっている。
「む……無理です、そんなの! 私、イドさんを裏切るような真似は出来ません!」
「じゃあ、お前は犯人に襲われていいのか? ストーカーと轢き逃げの犯人が同一人物とは限らないぞ。複数の人間に狙われても、お前は彼氏を優先するのか」
「それは……」
「別に、俺はお前に妙な事をする気なんかない。それともお前は、誰しもが自分を愛するとでも思っているのか?」
そんな事はない。今でこそ国重さんは普通に接してくれるけど、流されていた頃の私は確実に嫌っていた。多分、私がここで意見を通したら……その時と同じように、私に見切りを付けるんだろう。
「俺とお前は男と女じゃない、刑事と被害者だ。初めから枠が違うんだから、あまり気にするな」
私が引かなければ、多分重い空気は収まらない。けれど私だって、譲りたくないものはある。イドさんを悲しませる真似だけは、もうしたくなかった。