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純の恋人
第6章 マスカレード
と、その時。目の前にちらつく、砂嵐。なんで、よりにもよってこんな時に、記憶が私を呼ぶんだろう。
ああ、そういえば、私が記憶を取り戻す時って、いつも国重さんがいる時だ。どうしてなんだろう。
ふと抱いた疑問も、沈んでいく意識には敵わない。暗い底に身を任せれば、体に――下腹部に、痛みが走った。
空は白ばんできていて、過ぎ去る夜を追うようにカラスが飛ぶ。腕や背中の擦り傷が痛い。けれど何より痛いのは、夜通し犯された秘部だった。
もう、叫ぶ気力もない。喉はからからで、掠れている。血の滲む腕を押さえながら歩いていると、誰かとすれ違う。破かれて土まみれになった布切れじゃ、体を隠せない。けれどそれを恥じる心すら、私には存在していなかった。
「あの……」
すれ違った通行人が、声を掛けてくる。真面目そうなサラリーマンに見えるけれどこんな朝早くに、ベージュのスーツだ。端正な顔つきだし、ホストか何かだろうか。
「余計なお世話かもしれませんが……警察へ行ったらいかがですか? ここから引き返して一つ目の角を右に曲がれば、交番がありますよ」
警察。その単語に、私が抱いたのは恐怖だった。