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純の恋人
第6章 マスカレード
「あの病院……確か、土居記念病院だったか? お前、あそこが行きつけの病院だったりしたか?」
「いえ、初めての病院でした。そもそも、あんな大きい病院にかかる事なんてありませんでしたし」
「だとすれば、あの病院に運ばれたのは救急隊員の判断か、通報者の誘導か」
通報者――暴力団関係者で、現場から逃げた人。もし通報者がかかりつけの病院を土居記念病院だと偽っていたら、出来る限り救急隊員はそこへ向かおうとするはずだ。もちろん病院のベッドの都合で、たまたま選ばれた可能性だってあるけれど。
「病院まできな臭いとは、どうなってんだよ日本は。一度、洗い直してみる必要があるな」
「あ、暴力団といえば……私、事故の前、ベージュのスーツを着た、見た目は真面目そうで格好いい男の人とすれ違った時に話したんです。あの人が多分、通報者か目撃者だと思うんですけれど」
「ベージュの? 男前なら、間違いなくそいつは目撃者だな。通報の身代わりを頼まれた一文字組の若頭、一文字菊だ」
「その人は、本当にただ偶然居合わせただけの人だと思います。ボロボロの私を見て、警察へ行ったらと声を掛けてくれたんです」