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純の恋人
第7章 真実の破片
通された先、応接間のソファに腰を掛けて待っていたのは、記憶で見たのと同じようなベージュのスーツ。一見すれば、街に溶け込んでも違和感のない紳士である。けれどまともな状態で顔を合わせると、どこか引っかかるものがある。
一文字組の若頭、一文字 菊。彼は爽やかに微笑み、私達にお辞儀した。
「初めまして……というのは少し間違いですか。どうやら複雑な事情がありそうですが、まずは命があって何よりです。どうぞ、そちらへお掛けください」
「は、はい。あの……事故の件では、お世話になりました。これ、ほんの気持ちですが……」
私は座る前に、用意したお菓子を渡す。こんなビルの中に会社のある人からすれば、お菓子なんて粗品以下かもしれないけれど。
「わざわざそのような物まで……ありがとうございます」
しかし若頭は、微笑んだままそれを受け取る。どうやら失礼とは思っていないようだ。私は安堵しながら、向かいのソファに座った。
気になるのは、隣に座る国重さん。刑事とヤクザ、相容れないものは仕方ないけれど、国重さんは目に見えてピリピリしている。いきなり怒鳴りつけたりしないだろうか。