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純の恋人
第7章 真実の破片
「さて、まずはあの事故の日、あの現場にいた者が何者かはっきりさせておきましょう」
若頭は国重さんの事を一瞬でなかった事にして、口を開く。
「あなたの推理通り、僕は本当に偶然通りかかった人間です。ですが……ひき逃げの犯人は、僕が――いえ、正確には『目撃者』が通りがかるのを待っていたのかもしれません」
「それは……どういう意味ですか?」
「事故の瞬間の記憶は思い出しているのですよね。ではもう一度よく思い出してください。轢かれる前、あなたは何を聞きましたか?」
何を見た、ではなく、聞いたか。私はあまり触れたくない記憶を、もう一度掘り起こしてみる。車のエンジン、そしてブレーキ音――
「あ……」
私はそこで、ようやく気付く。そうだ、私は、ブレーキ音を聞いていたのだ。
「犯人は、私を轢く前にブレーキを踏んでいます。轢き殺す気なら、ブレーキなんか踏まないはずなのに」
「ええ、つまり犯人は、積極的にあなたを殺す意思を持ってはいなかったのだと思われます。もちろん車で轢いているのですから、死んでしまったらそれまで、という意識はあったでしょうが」