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純の恋人
第8章 不信
私がすがりついたのは、警察署の入り口にたまたま立っていた若い刑事である。その男はまだここへ配属されて間もない新人で、血相を変えて飛び込んできた私に、上手い対応を返せずうろたえていた。だが錯乱していたその時の私に、彼の戸惑いを察知する余裕はなかった。
「助けてください……っ!! ずっと後ろから、誰かがついてくるんです! 家も監視されていて、変な手紙も……私、どうしたらいいか、分からなくて……っ」
涙をぼろぼろとこぼせば、メイクが崩れ目の周りが薄汚れる。そんな事に気遣う余裕もなく、私はただ震える手を伸ばした。
「あ、あの、分かりましたから、少し落ち着いて……」
刑事さんは辺りを見回し、他の署員に助けを求める。そしてその内の一人が書類を持って近付こうとした、その時だった。
私は肩を押されて、尻餅をついてしまう。転んだ私を見下ろすのは、眼鏡を光らせた厳しい瞳だった。
「ここは公共の場だ、喚き散らして迷惑だと思わないのか」
眼鏡の彼は私にそう吐き捨てると、私が縋った刑事さんの胸ぐらを掴む。