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純の恋人
第8章 不信
惨めで情けない私の横を、何も言わず刑事はすり抜けていく。まるで、私の存在なんてなかったかのように。
彼が出ていくと、書類を持った警官が、私に近付き手を差し出してくる。
「あの……被害を届けるなら、こちらにご記入を……」
今さら手を差し伸べられても、どんな顔で握ればいいのだろう。馬鹿馬鹿しくて、もう涙も出なかった。
私は一人で立ち上がると、声を掛けてくれた警官を無視して署を出ていく。頼りない声は入り口までは追ってきたけれど、外に出ればすぐに消えた。
(私が……一人でなんとかしなきゃ)
胸に残るのは、孤独な戦いへの決意。あんな思いをするくらいなら、警察なんて行かなければよかった。私は一人で、解決しなきゃいけないんだ。
けれど、ストーカー相手に、何をどうすれば解決出来るのか。分からなくて、私は途方に暮れる。深い泥の中に沈んでいくようで、背筋が寒くなった。
目覚めた私は、嫌な汗がびっしょりで涙を流していた。意識が浮上してもなお、泥沼は私を蝕む。けれど今は沈む前に、成実さんが手を取ってくれた。