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純の恋人
第8章 不信
「アンジュさーん、良かったっス! 全然起きないから、もう駄目かと思ったっス!」
大げさにも見える成実さんのリアクションは、私を泥から掬い地の上に引き戻す。思わず苦笑いしてしまえば、成実さんはベッドに突っ伏し男泣きした。
「アンジュが死んだら、世界の損失っス! ああ、本当に良かった……うおぉろろーん!!」
「な、成実さん……あの、ところでここは? 私、どうなったんでしょうか」
成実さんは私の問いに顔を上げると、ポケットティッシュを出して涙を拭い垂れまくった鼻を噛む。ヤクザなのにきちんとポケットティッシュを持ち歩いているなんて、なんだか不思議だ。成実さんはごみをごみ箱に捨てると、ようやく口を開いた。
「ここは、一文字組お抱えの病院っス。土居記念病院は悪の巣窟っスから、あそこでまた入院、なんて話になったらまずいと思って。オレ、慌ててここまで来たんスよ」
「イドさんは?」
「知らねっス。あの場に置いてきたっス」
「そうですか……結局、何も話せなかったな……」
窓を見れば、そこはカーテンが閉まっている。けれど明かりの具合からすれば、外はもう夜だろう。かなり長い時間、私は意識を失っていたようだ。