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純の恋人
第8章 不信
「私は大丈夫です。具合が悪くて倒れた訳ではありませんから」
私は記憶に呼ばれただけで、別に具合が悪い訳じゃない。むしろ今まで寝ていたせいで、目が冴えるくらいだ。
私は、思い出した。そしてなんとなく、記憶の思い出すトリガーも分かった気がする。多分『一人でなんとかしなくちゃ』と自分を追い詰める気持ちが、目を背けた現実に向き合わせているんだと思う。国重さんと一緒の時によく記憶を取り戻していたのは、彼が私にプレッシャーを与えていたからなんだろう。
国重さん。私は彼に縋り、今まで足を進めてきた。彼が私に自力で立てと促したのも、決して間違いではなかった。
けれど、国重さんは嘘をついていた。私を拒んだのは、警察じゃなかった。私を警察から遠ざけたのは、国重さんだった。
「……田中さんのところに、行きます。彼と、話がしたいんです」
今ここにいるのが成実さんである事に、私は正直ホッとしている。きっと今国重さんと顔を合わせてしまえば、私は何を言ってしまうか分からない。もう……誰も、信じられない。利益があるから私に投資する、そんなビジネスライクな若頭の方がまだ、目的がはっきりしている分信用できた。