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純の恋人
第8章 不信
田中さんは目を見開き、中腰のまま硬直してしまう。私は頷くと、田中さんに座るよう促した。
「田中、って、逆から読むとカナタですよね。マスカレードで田中さんは女性の振りをしていたから、それがバレないよう私はあなたをカナなんて女性みたいな呼び方をしていた……違いますか?」
「……その通りだけど、それを訊ねるって事は、思い出してはないのか?」
「私が思い出したのは、田中さんが私のために本気で心配してくれていた事と……事故の直後、あなたに申し訳ないと思っていた事だけです」
田中さんは私の隣に座ると、私を抱き締め肩に顔を埋める。私と田中さんは、抱き合うような関係じゃない。でも、今はそれを振り払う気分にはなれなかった。
「申し訳ないだなんて……本当に悪いのは、俺なのに」
「田中さん、いえ、カナは何も悪くありません。あなたは私のために怒ってくれたのに、気付かなくてごめんなさい」
肩に感じる、じわりと広がる涙。ごめんと何度も呟く田中さんの背中を、私は慰めるようにさする。すると若頭は、顎に手を当て首を傾げた。
「純さん、この男は犯人ではないと?」