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純の恋人
第2章 三人の男
代わりに彼は私の手を握ると、思いもよらない事を口にした。
「ねぇ、キミはオレの事知らないよね?」
「え?」
「知ってる訳ないよね、だって今日初対面だし」
有無を言わさない態度に、私は頷くしかない。事実彼の事は全く知らないから、頷いても間違いではないし。
「キミの名前は……よしかわ? きっかわ? 純ちゃん、か」
「あ、きっかわです。吉川純です」
「オレは、イド。謎の男イド君ね」
「イド……さん?」
明らかに偽名のそれに、今度は私が目を丸くする。けれどイドと名乗った彼は屈託のない笑みで、大げさに頷いた。
「そ、昔の純ちゃんも、今の純ちゃんも知らない謎の人。オレの事、覚えて欲しいな」
繋がれた手に、力がこもる。細身で、童顔に見えるけれど、イドさんの手はしっかり男の人だ。
「……純ちゃんが知らなくて当たり前の事、沢山あるって教えてあげる」
私は、イドさんの事を知らない。本名も、出生も、誕生日も血液型も、何もかも。けれど私の事を知っている宮城さんに触れられるより、知らない温もりの方がときめきを呼んでいた。