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純の恋人
第2章 三人の男
でも、彼の瞳が三人の中で一番、欠けてしまった『吉川純』を見つめている。優しさは私ではなく彼女に向けられたものだと思うと、あまり素直に喜べなかった。
「……ごめんなさい」
「どうして謝るんだ? 純が謝る事なんて、何もないよ」
田中さんは私の頬にキスをして、ベッドの横に置かれた丸椅子に座る。手並みの鮮やかさは、やはり夜の人だ。
「心配だな、退院決まったって聞いたけど……もう少し入院しててもいいんじゃないかな。追い出すように退院だなんて」
「体が元気なのに、いつまでも入院していたらベッドがもったいないです。大丈夫ですよ」
本当の事を言えば、確かに不安だ。けれどここにいても、多分何も変わらない。根拠はないけれど、そんな気がする。田中さんの望みのためにも、私はずっとぬるま湯に浸かっている訳にはいかなかった。
「でも、この部屋だって他に誰もいないじゃないか。そりゃ病院のベッド不足は問題になってるけれど、見放すような事しなくても」
確かに他のベッドに患者さんが入った事はないし、イドさんも今日は検査が長引いているのか、戻る気配がない。この病院に関しては、色々と余裕がありそうだった。