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純の恋人
第3章 刑事 国重一
強い非難の口調に、私はますます口をつぐむ。こんな重苦しい空気の中、反論出来る勇気なんて私にはない。
「……言いたい事も言えず、傷付いた可哀想な自分に酔っているつもりか? 自分の意志もはっきりしないで他人にアイデンティティを丸投げする、俺はそんな人間は嫌いだ」
どうして私は、初対面の人に嫌いだなんて言われなきゃいけないんだろう。私だって、本当は嫌だと言いたい。三人にだって、恋人だなんて言われても知らないと拒否したい。
でも、本当にそれが『私』の正しい感情なのかが分からないのだ。欠けた記憶は、今の私を良しとしているのかもしれないのだ。その可能性があるなら、欠陥品の私が簡単に主張なんて出来なかった。
「……ここまで煽っても何も言えない、か。本当にお前は空っぽなんだな」
国重さんが浮かべる失望に、私はただ拳を握る事しか出来ない。滲む涙に気付かれないように、私はただうつむいた。
「もういい。お前がどんな人間だろうが、俺は事件を解決できればそれで構わないからな。とにかく、用心するべき相手にはもう体を許すな。分かったな」