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純の恋人
第4章 そして誰もいなくなった
「じゃあ、帰ればいいのに……」
「ああ? 今何て言った?」
「な、何でもないです」
もし本物の私であれば、彼に対し強く意見を返すだろうか。返すかもしれない。だって取り戻した記憶の中で、私は宮城さんに随分と本音でぶつかり合っていた。欠陥品の私からすれば、信じられないくらいに。
その勇気は、どこから奮い立たせていたんだろう。多分その源も、記憶のどこかにあるはずなんだ。今の私に、勇気なんてどこにもないんだから。
国重さんは、苛々して腕を前に組む。私が苛つかせているのだという事は分かる。きっと記憶の中で見た宮城さんのように、本音でぶつかる事を望んでいるんだろう。今の私には、難しい話だった。
「お前、何も記憶は取り戻していないのか? こんな事件、記憶があればすぐに解決するんだ。早く思い出せ」
「そんな事言われても……」
国重さんの無神経な言い方に萎縮して、私はベッドの上で膝を抱える。思い出せるなら、とっくに思い出している。出来ないから、怖くて焦って仕方ないのだ。
イドさんに会いたい衝動に駆られるけど、国重さんが来るとイドさんは気を遣って部屋から出て行ってしまう。