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純の恋人
第4章 そして誰もいなくなった
国重さんの言葉が信じられなくて、私は唖然としてしまう。面と向かって私に不愉快だの嫌いだの言う人が言う言葉ではなかったはずだ。私が戸惑っているのに気付くと、国重さんはますます顔を真っ赤にして怒鳴った。
「吉行に言われたんだよ! お前は口が悪い、お前が何か思い出したら、ちゃんと褒めてやれって!」
なるほど、どうやらこれは、昨日一緒に来ていた刑事、坂本さんの入れ知恵だったようだ。けれど、無視する事は出来るはず。国重さんはそれをしないで、言葉を掛けてくれたんだ。
「……ありがとう、ございます」
なんだかすごく心が温かくなって、私は無意識に呟く。自然と頬が緩んで、表情にも温かさがこぼれた。
「ああ、吉行に伝えておく」
「え? あ、今のありがとうは、坂本さんじゃなくて、国重さんに」
「俺に……? ば、馬鹿も休み休み言え! 俺は仕事だから言ってやっただけだ」
この事件はプライベートな時間を割いて調べているって言っていたのに。下手な言い訳をする国重さんは、私よりずっと大人なのに、なんだか可愛いと思ってしまった。