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純の恋人
第4章 そして誰もいなくなった
背筋にぞっと恐怖が走る。けれど私はすぐに矛盾に気付いた。事故でなければ困るなら、現状に田中さんが怒る必要はない。警察は思惑通り、事故として全てを隠蔽しているのだから。
だとすれば、怒ったのはストーカーについてなのかもしれない。田中さんは本当に、私を思って声を上げたのかもしれない。真実は、どちらなのだろう。
「……いつか、必ず尻尾を掴んでやる。逃げられると思うなよ」
国重さんが手を離せば、田中さんは走り去る。そしてその背中を眺めながら、舌打ちした。
「これが正規の事件なら、署までしょっ引いて尋問出来るんだがな」
怪しいと分かっていても、私達に出来るのは話し合いだけだ。国重さんの悔しさは、握り拳を見ればすぐに伝わった。
「……国重さん」
こんなに真剣な人が、悔しい思いだけを抱えるなんていけない。報われてほしい。ひとまず今の私に出来る事は、一つだけだ。乱れた病衣を整えると、私は頭を下げた。
「助けて下さって……ありがとうございます。国重さんが来てくれなかったら、私」
だが国重さんは、辛そうな表情で首を横に振る。