この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
恋のたまご、割るのはダレ?
第2章 ブラックヒストリーというやつ
インターホンで貴也は一瞬顔をしかめたが、すぐにロックを解除し、「入れよ」と部屋へ入れてくれた。
その日、珍しく貴也の部屋は散らかっていて、ゆうみが入り口で立ち竦んでいると慌ただしくベッドの下へ何かを隠していた。
ゆうみは貴也の後ろ姿に向かって、消え入りそうな声で「あ……あの……この間はごめん」と言うと、貴也は大きく息を付いてから振り向き、笑った。
「まあ、いいよ。でもさ……他のやつの部屋で同じことすんなよ」
「他のやつ――?……誰のこと?」
「まあ……お前が他の誰かの部屋へ上がることもないかも知れないけど……」
「???」
「何でもない、まあ、座れよ」
貴也に促され、いつもの様にベッドの脇に腰かけて、ゆうみはケーキの入った袋を貴也に押し付けた。
「何だよ、こんなに食えねえって」
「貴也、これ好きでしょ?」
「まあ……うーん」
曖昧に笑う貴也に、ゆうみは拝むように手を顔の前で合わせて頭を下げる。
「――ねえっ!お願い!これ……一緒に読んで!」
その時ゆうみが上着のポケットから取り出したのは――
"強引王子に愛されて"
という、当時大人気だった
"強引王子シリーズ"
のライトノベルの新刊だった。
「なんだよ……またBLじゃないだろうな」
「違う違う!どノーマルな男女のだから大丈夫!」
ゆうみはそう言うと、貴也の肩にくっつく程の距離まで近付き、本を広げてお気に入りのシーンを朗読し始めた。
ゆうみがヒロイン、貴也はヒロインの恋の相手の
"強引王子"ことルイス役だった。
貴也は溜め息を吐いて、ゆうみに続いてルイス役をやってくれた。
『ルイス……今……何て?』
『俺は、お前が……』
クライマックスの告白シーンで貴也は突然口をつぐみ、そっぽを向いた。
「貴也っ!何で止めるのよ」
「もうお前帰れよ」
「何よ――!今いいところなのに!」
貴也の腕を引っ張った瞬間、ゆうみはベッドに倒された。