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愚者の唇
第1章 愚者の唇
部屋を濡らすのは悪いと思ったのか、それは素直に受け取られた。
代わりに投げ渡されたのは、テーブルの上の充電器にあった、私の携帯電話だった。
それから彼は、壁時計をチラリと見た。
「タクシーを呼べ。20分後」
「20分…」
「早くしないと、だんだん減るぞ。19分」
無情なカウントダウンに、私の思考は停止し、ただ命令に従う機械と化す。
台風で電車は止まらなかったらしいが、もう終電はないのだから、車を呼ぶなら1時間後でも、2時間後でもいいはずなのに。
タクシーの配車係から告げられた到着時刻は、さらに残酷な15分後であった。
「15分で 来るそうです…」
「十分だな。早く脱げ」
それには簡単に従いかねる。
直前までしていたことの恥ずかしさに下を向いた私は、なけなしの抵抗を試みた。
「…シャワーの許可を。1分で済ませます」
「理由は?」
「………」
「だいたいわかる。認めない」
彼は軽蔑の眼差しで、冷たく笑う。
腕をつかまれ、狭い部屋で大きく場所をとっているベッドに寄りかかる王さま然とした彼の前、罪人の有り様で私は床に投げ出された。