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愚者の唇
第1章 愚者の唇


審判を待つ間はない。
土下座の格好でスーツのズボンを留めるベルトに手をかけ、取り出したものに、急いで舌先を寄せた。


「はっ、…」

死に物狂いの女に対して嘲笑まじりの息を吐く彼の指が、私の髪を掻く。撫でるのではなく、より良い角度に引き寄せる。
私は表情を伺い、ちゅ、と音をたて、芯を持ちつつある裏筋に薄く吸い付いた。

気味の悪い湿度に湿った彼の体臭と、最近手に入れにくくなったアルマーニの香りが絶妙に交ざりあい、私の鼻と性感を刺激する。







今日は、来ないと思っていた。

定時。この台風で電車が止まってしまう前に、と私を含めた全員に帰宅指示が出た。

私は今日、仕事で大きなミスをまたやらかし、彼に泣かされるまで人前で叱られた。彼は普段の忙しさに加えてその対応にまで追われ、こんな日、こんな時間まで会社に残っていた。






より喜んでもらえる場所を上目に探しながら、ザラとした舌で猫がミルクを飲むように細かく舐め上げ続ける。
そう言う種類の機械になった私を見降ろす、彼の口が開いた。


「ぱくん」

しゃぶれ、と命令系のほうが彼と私の関係に合っていると思うのだが、この言い方だけいつもこれだ。
なぜ。

でも聞く暇はない。
言われるまま口に含み、求められるまま私は頬をすぼめた。
指先で円を作り、入りきらない根元に刺激を加えると、彼はたまらず後ろ手をつき「ああ…」と声を立て、吐息の塊を吐き出した。




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