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ただ一つの一対
第6章 夢の終わり
 
 殺されなかったのは、美和子が組の重鎮である左月の娘だったからである。左月は則宗が嫌う菊の教育係で、前々から関係は悪い。あまり敵対心を深めれば、不要な分裂を招く危険があったのだ。

 だが死よりも辛い拷問を続けられるなら、いっそ一思いに殺した方が慈悲である。昼は則宗の補佐として無茶な仕事を回され、夜は則宗派の組員達の慰み者。美和子は花ざかりであるはずの青春や二十代という時間を、則宗の奴隷として過ごした。

 美和子が三十路を迎えると、夜の奉仕はますます歪んだものとなっていた。若ければ、そのままの体を楽しめる。が、年を取り若さを失いつつある女で楽しむなら、より刺激が必要である。その日も美和子は柱に縛られ、後ろの穴にディルドを挿入された状態で待たされていた。

 だがそこへ現れたのは、ヤクザにしては風変わりな男。美和子の知るヤクザとは違い、清潔で、威圧感のない細身の若者だった。

「あなたは……」

 美和子は、その紳士的な佇まいに、僅かながら見覚えがあった。則宗が常日頃から嫌い、文句をこぼす若頭――かつて美和子がその体に鉛を撃ち込んだ、菊だった。
 
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