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ただ一つの一対
第6章 夢の終わり
「信用するかしないかは僕が決める事です。あなたはこのまま飼い殺しにされるか、自由を手にするか選べばいい」
美和子の記憶の中で、菊はひ弱な子どもだった。そして今も目の前にいるのは、自分より十も年下の青年のはずである。極道独特の威圧感もなく、さして鍛えているようにも見えない。だが、余裕を湛えた笑み。それは成人したばかりの男が浮かべる表情ではなかった。
「……自由だなんて、詭弁でしょう? 則宗様から、あなたに所有権が移るだけです。私はこの組で飼われて、利用されて朽ちるだけ。少し立場が変わったところで、未来は何も変わらない」
「あなたが奴隷根性を捨てなければ、そうなるでしょうね。ですが、強くなりたいと思うなら、変わるものもあるでしょう」
「強くなる……?」
「僕の裏を掻き、利用し、己の欲するものを得なさい。もちろん僕はそんなあなたのあがきを利用して、自分の都合のいいようにあなたを動かします。都合が悪くなれば、捨てる日も来るでしょう。しかし、あなたが僕より強ければ、僕をねじ伏せ鎖を外せるかもしれません」
菊の目には一切の曇りもなく、それは心からの発言のようだった。