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ただ一つの一対
第6章 夢の終わり
だが、それはまともな人間の発言ではない。組への忠義が何より重視される極道の世界において、絶対的存在である組長や若頭への叛意は、むしろまともな職業より嫌われる行為だ。それを自ら堂々と企めとは、並みの心臓では言えないはずである。
「僕があなたに与える自由は、ただ一つ。思想です。あの無能はあなたに何一つ与えなかったようですが、僕はそれだけ認めましょう」
「そんな事を許して、本当にいいのですか? 私は、憎いです。私を置いていった宗一郎様が、私を慰み者にした則宗様が、そしてそれでもなお、私を一文字組に縛ろうとする、あなたも……」
「ならば、復讐すればいい。僕を出し抜き組を崩壊させる頭脳を、あなたは持っているはずです。その力を使い、強く生きなさい」
美和子は菊のネクタイを掴むと、身を寄せ唇を重ねる。男を跪かせるのに一番手軽で手っ取り早いのは、色仕掛けなのだ。偉そうに志を語っても、股を開けば覗かずにはいられない。数多の男を受け入れてきた美和子は、堕落させる術を山ほど心得ていた。
「僕は色仕掛けじゃ堕ちませんよ。手抜きで自由を得られると思われては困ります」