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ただ一つの一対
第1章 失恋した男
だが、極限まで張り詰めた陰茎は、インターホンの音でぴたりと止まる。時計は六時半、来客には到底早い時間だが、菊と片倉、双方に心当たりがあった。
「……失念していました、今日は土曜日でしたか」
菊はあっけなく自身を引き抜くと、玄関へ向かおうとする。だが片倉は腕を掴み引き止めると、菊に潤んだ瞳を見せた。
「このまま終わりなんて、収まりません! 今日は、私を優先してはくれませんか……若のためなら、どんな事でもしますから」
「なぜ僕が、あなたを優先しなくてはいけないのですか? この約束は前々から取り決められたもの、飛び入りのあなたにねじ曲げる道理はないでしょう」
菊は一瞥もくれずに片倉の手を振り払うと、備え付けのモニターから外で待つ相手へ声を掛ける。
「おはようございます、菖蒲(しょうぶ)。少し待っていてください、今部屋が散らかっているので、少し整理します」
はきはきとして爽やかな受け答えに、片倉は唇を噛む。こうなれば菊が、再び自分に目を向ける事はない。豊満な肉体も、豊富な知識も、菊を惹きつける要素にはならないのだから。