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ただ一つの一対
第1章 失恋した男
 
 菊は片倉に脱ぎ散らかした服を渡すと、浴室を指差す。

「窓から飛び降りて消えろとは言いません。その甘ったるい匂いを落としてから出てきてください。体が収まらないなら、これを貸してあげますから」

 服と一緒にバイブも渡すと、返事も聞かず菊は自分の寝室へ着替えに戻ってしまう。ここで余計な真似をすれば、本当に窓から落とされてしまうのは確実だ。どんな思いを抱こうとも、片倉に残された道は一つしかなかった。

 情事の痕跡を消した菊は、浴室からシャワーの音がするのを確認するとドアを開く。待っていたのは、秋を先取りした赤いワンピースに身を包み、竹刀を背負い大きなバッグを持った少女。

「おはよう、叔父さん!」

 高い位置で纏められた黒いポニーテールは健康的で、はつらつとした少女によく似合う。夜を支配する男相手に眩しい笑みを浮かべるのは、姫鶴 菖蒲――兄の娘、つまりは菊の姪だった。

「おはようございます、入ってください。まずは朝食にしましょう」

 菊は菖蒲を招き入れると、荷物を運んだ後、ダイニングキッチンへ通す。そして冷蔵庫を開くと、適当な食材を手に取った。
 
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