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ただ一つの一対
第1章 失恋した男
 
 Yシャツにデニムといったラフな服装だが、菊は立っているだけで絵になる。テーブルに肘を付き、菖蒲は溜め息を漏らした。

「ホント、叔父さんってお父さんと兄弟だなんて思えないよね。見た目モデルみたいだし、優しいし頭良いし紳士だし料理も上手だし。あたし、叔父さん家の子どもになりたい」

「お兄様とは十も離れていますから、似ていないように見えるのも仕方ありません。十年経てば、僕もお兄様のようになりますよ」

「ならないよ! 叔父さんは知らないだろうけど、お父さん最近またムキムキになったんだよ? 叔父さんと違ってヒゲダルマだし、汗臭いし、料理どころか家事なんて何一つ出来ないし! 叔父さんとは正反対」

「菖蒲、きちんとあなたを育ててくれる優しい親相手に、悪口など言うものではありません。汚い言葉は、心も醜くしますよ」

 口調は穏やかで説教がましくないが、菊の諫言に菖蒲は言葉を詰まらせる。常に微笑んでいる、優しい叔父。だからこそ、たまの苦い言葉は胸に響いた。

「ごめんなさい……」

「素直に謝罪出来る子は好きですよ。さ、手伝ってください。あなたの好きな、味見の時間です」
 
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