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ただ一つの一対
第7章 彼女の優しさ
 
「せっかくの提案ですが、僕は動物が苦手なんです。出来れば別のところがいいですね」

「そうなの? 知らなかった、なんで苦手なの? 昔噛まれた事があるとか?」

「だって動物は、汚いじゃないですか」

 菖蒲はその言い分に目を丸くし、固まってしまう。菖蒲が知る中で、菊が何かを貶めるような発言をしたのは初めてだったのだ。今まで見た事のない顔に、すぐ言葉を返せなかった。

「ああ、菖蒲は動物が好きでしたか? 感じの悪い言い方になってしまいましたね。同じ動物でも、魚は嫌いではありません。水族館なら大丈夫ですよ」

「――ううん、ちょっとびっくりしただけで、感じ悪いとは思ってないよ。でも意外だな、叔父さんにも苦手なものってあったんだね」

 菖蒲は、このまま違和感を口にしようかどうか迷う。苦手だと言っている物をわざわざ掘り出すような話をするのは、菊にとって不愉快だろう。嫌われるような話はしたくないが、抱いた疑問をそのままにするのも気持ちが悪かった。

 菊は窓の外を眺め、ぼんやりとしている。いくら共に剣道の稽古をつけても、体を重ねても、その心の内はまだ見えなかった。
 
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