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ただ一つの一対
第7章 彼女の優しさ
「食べ物って……もしかして叔父さん、水族館に行ったら「美味しそう」って呟いちゃうタイプ?」
「呟かないタイプの人もいるんですか? あんなに美味しそうなのに」
首を傾げて訊ねる菊に、菖蒲はつい笑い声を漏らしてしまう。踏み込まなければおそらく一生気付かなかったであろう、菊の一面。完璧に見えても、やはりどこか人間らしい部分もある。そう思えば、先程までの違和感もどこかへ吹き飛んでいた。
「普通、水族館は綺麗だから見に行くんだよ? 叔父さん、変なの」
「そ、そうなんですか? しかし小さい頃世話係に連れて行ってもらった時には、魚の名前や特徴と共に、美味しい部位や共に飲みたい酒の品種を教えてもらったものですが」
「それ、世話係の人がおかしいよ。その人以外の人と一緒に行った時、突っ込まれなかったの?」
「特には、何も……そうですか、あれは綺麗だから見に行く場所なのですか」
菊は僅かに頬を赤くして、また菖蒲から目を逸らす。だが、今度の沈黙は決して悪いものではない。菖蒲はひとしきり笑うと、仕切り直した。
「動物だって、全体を見たら汚いかもしれないけど、そうじゃないところもあるよ?」