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ただ一つの一対
第7章 彼女の優しさ
「そう……でしょうか」
「うちで飼ってた犬は、初めお父さんを嫌ってたけど、お父さんがちゃんと地道に向き合って世話してたら、ちゃんと懐くようになったよ。一人一人向き合う努力をすれば、動物も、人間と同じように分かりあえるんじゃないかな。立場で態度を変えるのは、全員と向き合ってたら大変だからかも」
ふと菊は、自らを振り返ってみる。多くの人間、それこそ猿山のようにしのぎを削り合う中で、自分はどんな努力をしていたかを。
「……菖蒲の考えは、シンプルですが美しいですね。僕もまた、立場だけでモノを見て判断する愚かな人間でした」
「そんな、叔父さんはいつも大げさだよ。叔父さんは、愚かなんかじゃないし。ただ、優しすぎるだけ」
「優しいだなんて、菖蒲以外の人は誰も口にしませんよ。僕のような人間が、怒鳴る者より本質は怖いらしいですから。本質が優しいのは、あなたの方です」
菊はそう言うと、菖蒲の手を取り立ち上がる。そして菖蒲の耳元で、熱く囁いた。
「今、すごく菖蒲が欲しいです。僕が怖い人間でも……受け入れてくれますか?」