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ただ一つの一対
第1章 失恋した男
「そんな言い方、あたしが食いしん坊みたいじゃん! 味見しか出来ないみたいに言わなくてもいいのに」
「おや、そう言ってこの間卵焼きを焦がしたのは誰ですか? そんなに自信があるのなら、後は任せてみましょうか」
菖蒲がキッチンに入れば、切られた野菜やお手製のドレッシングが目に入る。それらをどうすれば料理の完成に至るのか分からず、菊を見上げ、目で助けを求めた。
「背伸びはするものじゃないでしょう? 出来る事から覚えていけばいいんです」
菊は苦笑いすると、菖蒲にトマトのペースト瓶を渡す。それも既製品ではなく手作りのペーストで、菖蒲はますます腕の差を思い知らされた。
「瓶の開け方は分かりますね?」
「子供扱いしないで! それくらい分かるもん!」
膨れながら瓶を開ける菖蒲に、菊は堪えきれず腹を抱えて笑う。どこまでも子供扱いなのは不名誉だったが、和やかな空気は悪くなかった。
二人で朝食を――といっても菖蒲はほぼ片付け係ではあるが――作り、ダイニングへ運ぶ。洋風のスープやサラダ、パンの並ぶ食卓も、菖蒲にとっては新鮮なものだった。