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ただ一つの一対
第7章 彼女の優しさ
言葉を証明するかのように、菖蒲は菊に口付ける。
「だから……何か悩んでたら、言ってね? あたし、ちゃんと考えるから」
真摯で温かい言葉に、菊の心は揺さぶられる。悩んでいる素振りなど欠片も見ているつもりはなかったのに、菖蒲は理解し踏み込もうとしていたのだ。
「あなたはどうして、僕の欲しいモノがそんなに分かるんですか? 思想や性格、価値観が一致している訳ではないのに」
「それは……叔父さんの事、いつも見てるから。叔父さんが大好きで、目が離せないんだよ」
「なるほど、それは光栄です。僕も、あなたから目を離したくありません。僕の腕の中に閉じ込めて、誰にも干渉されず、二人だけで生きていけたら、どんなに幸せか……そう、出来たらよかったのに」
流れる血や、自身の汚れた手の問題は、例え菖蒲が頷いたとしても永遠に逃れられない枷である。菖蒲が真っ白であればあるほど、闇にしか引きずり込めない自分の身が憎らしくなる。菖蒲の覚悟を見ても、否、見たからこそ、簡単に堕ちてこいとは口に出来なかった。
「――悩んだら、きちんと話しますよ。でも今は、大丈夫です」
結局菊は、ありきたりな言葉で結論を濁す。