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ただ一つの一対
第7章 彼女の優しさ
 






「左月さーん! もうオレは駄目っス、耐え切れないっス!」

 事務所に響き渡る、成実の泣き声。左月は呆れて溜め息を吐きながら、飛び込んでくる成実の頭を掴んで止めた。

「皆思ってる事は同じだ、一番辛いのは坊ちゃんなんだから、我慢しなきゃならんだろ」

「でも、あれじゃ若が死んじゃうっス! こうなったら姫様に連絡して、若とやり直すよう説得を――」

 だが成実が最後まで言い切らない内に、背後から後頭部に拳骨が飛んでくる。痛みに成実が振り向けば、菊が苛ついた表情で睨んでいた。

「菖蒲に連絡なんて入れたら、その瞬間海に沈めますよ」

「若!」

 瞳は鋭く成実を戦慄させるが、菊の顔は青白く、心なしか頬がこけている。明らかに、倒れる寸前の様相に、成実はまた泣き声を上げた。

「だって、このままじゃ若が死ぬっス! 若が死んだら、オレはどうやって生きていけばいいんスかぁ!」

「自分の人生なんですから、好きに生きればいいでしょう。僕が知った事ではありません」

「う……じゃあ、追い腹切って殉死するっスよ! マジっスからね!」

「どうぞどうぞ、僕が死んだ後なら、関係ない事ですから」
 
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