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ただ一つの一対
第7章 彼女の優しさ

あまりに素っ気ない反応に、成実は口を尖らせ愚痴をこぼす。
「若は冷たいっス、オレのために生きてやろうって気にはならないんスか」
「なんで僕が、お前のために生きてやらなければならないんですか。僕に男色の気はありません。気持ちの悪い発言も大概にしなさい」
菊は成実の首根っこを掴むと部屋の外に放り出し、ドアを閉める。
「あっ……若、オレを仲間外れにしてなにするんスか!」
「左月と仕事の打ち合わせがあるんです。お前の悩み相談は、仕事の後にしておきなさい」
成実はドアを叩き抵抗していたが、仕事と言われてしまえば言葉がなくなる。諦めて立ち去る足音を確認すると、菊はソファに座った。
「坊ちゃん、あいつもあれで、坊ちゃんを気遣っているつもりなんです。分かってやってください」
「気遣いとお節介は似て非なるものです。全く、迷惑極まりない」
さして厳しくはない口調に、菊が本気で成実を煩わしく思っている訳でない事を左月は察する。だが、それを差し引いても言葉は乱暴だ。菊に余裕がないのを悟ると、左月はまた溜め息を漏らした。

