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ただ一つの一対
第1章 失恋した男
「今日もいつも通り、知り合いの道場をお借りしています。試合も近いですし、今日は僕がお相手しましょう」
「叔父さんが!? 久々だね、嬉しい!」
「実は最近日本刀に凝っていまして、その影響か剣道も面白くて練習しているんです。今の僕なら、少しは菖蒲の相手になると思いますよ」
「叔父さんは前から強いよ。だって、小学校までで一回止めちゃったんでしょ? なのに立ち振る舞いは綺麗だし、攻撃は読みにくいし。叔父さんが本気で鍛錬したら、あたしなんかすぐ負けちゃうよ」
「剣道は経験が全てです。ずっと打ち込んできた菖蒲には、敵いませんよ」
朝食を取りながら交わされる、爽やかで穏やかな会話。夜の匂いなど微塵も残さず、朝は過ぎていく。だがそこへ、湯気とともに夜の欠片が舞い降りた。
「おはようございます、姫様」
浴室から出てきたのは、素肌にバスタオルだけを巻いた片倉。髪を下ろし、眼鏡も外したその姿は、誰が見ても仕事中ではないと分かる。菖蒲は慌てて目をそらすと、顔を赤くして答えた。
「お……おはようございます、片倉さん」