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ただ一つの一対
第8章 聖夜の狂乱
身を引くと決めたはずなのに、幻でもいざ目にしてしまえば、胸の奥から溢れる愛おしさ。いつ消えるかも分からない温もりを離したくないと、つい手を強く握ってしまう。言葉と行動が伴わない自分の弱さに、笑うしかなかった。
「夢ならば……少し、甘えてもいいでしょうか。菖蒲、そばにいてくれますか?」
菊は菖蒲を引き寄せ、仰向けに寝る自分の上に乗せる。軽すぎて病気ではないかと心配になる体重が、まるで現実に存在するかのように体へ伝わる。心地良い他人の重みは、ついこの間まで噛み締めていた幸せを思い出させた。
「叔父さん……夢じゃないよ、あたし、ここにいるよ」
菖蒲はそう言いながら、体を折り曲げ菊に口付ける。柔らかい唇の感触も、幻とは思えない心地良さである。菊は欲のまま交じりながらも、浮かぶ疑問に意識を覚醒させていた。
「菖……蒲? これは、ん……」
そこにいるのは現実の菖蒲であると気付けば、菊は菖蒲の肩を押さえ唇を離す。熱に浮かされた挙げ句の寝起きとはいえ、夢と現実の区別もつかない自分に、激しく後悔をしながら。