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ただ一つの一対
第8章 聖夜の狂乱
 
「いけません……僕に近付いては、あなたが不幸になります」

「叔父さんは、あたしが勝手に離れたのに、あたしを気遣ってくれるんだね。ありがとう」

 肩を掴む菊の手に頬を寄せると、菖蒲は微笑む。

「あたし、叔父さんがいてくれたなら、絶対不幸になんかならないよ。だって今、こうして顔見てるだけで幸せだもん。わがままばっかり言ってごめんなさい、一週間も経ってないのに、会っちゃ駄目だって思ったら、寂しくて死にそうだった」

「死ぬなんて、冗談でも言うものではありません。怒りますよ……」

「叔父さんも、さっき言ってた。あたしが駄目なら叔父さんも駄目だよ」

 菊は体を起こすと、肩に置いていた手を背に回す。いつもより熱い体温に、菖蒲の背筋には甘い痺れが走った。

「どうして、ここへ来たんですか?」

「叔父さんの事を想うなら、離れなきゃいけないって思ったの。でも、ずっと寂しくて辛くて、会いたくって……このまま叔父さんが死んじゃったら絶対後悔すると思って」

「僕は、あなたにそこまで惜しまれる人間ではありません。今は寂しくとも、時が経ち、新しい恋人が出来ればきっと――」
 
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