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ただ一つの一対
第1章 失恋した男
「片倉、はしたないですよ」
「しかし、乾燥機が止まるまでは着る物がございませんので。ご容赦ください」
悪びれなく答える片倉に、菊は溜め息を漏らす。そして片倉は、菖蒲の顔を両手で包み上げた。
「このような格好で申し訳ありません、姫様。私の事は構わずに、ゆっくりなさってくださいね」
「え? あ、はい……」
菖蒲が戸惑いながら頷けば、片倉はうやうやしく頭を下げる。菖蒲は毎週末に、菊の家に泊まり共に道場へ通う約束をしている。そしてその時遭遇する女の影は、これが初めてではなかった。
道場へ向かう途中、その後に立ち寄ったレストラン、マンションの前で出待ちしていた女もいる。片倉のように、部屋へ泊まる女は、さすがに初めてだが。姪の目から見ても完璧な紳士である菊を、女が放っておく訳がない。もてるのは仕方のない事だと、割り切るしかなかった。
「叔父さん、片倉さんの分のご飯は……?」
どう見ても片倉は泊まった後だが、食卓には二人分の朝食しかない。菖蒲が恐る恐る訊ねると、菊は首を傾げた。
「どうして僕が、片倉の分を用意するんですか?」