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ただ一つの一対
第8章 聖夜の狂乱
制止する菖蒲の声は届かず、宗一郎は菊の頬を殴りつける。激昂した拳は、菊が血を吐いても、あばらの折れる音がしても止まらなかった。
「殺してやる……殺してやる!!」
「やめて、やめてってば!!」
「うるさいっ!!」
菖蒲が宗一郎の拳を止めようとしがみつけば、宗一郎は怒鳴りつけて突き飛ばす。ベッドから落ちて体を打った事に目もくれず、菊へ狂気をぶつけた。
が、今まで殴られたままだった菊が、突然宗一郎へ抵抗を始める。咳き込みながら、ベッドの外に手を伸ばした。
「菖蒲……菖蒲!!」
「黙れ、俺の娘の名前を呼ぶなっ!!」
「黙るのはそっちです!! 菖蒲が、菖蒲が……っ!!」
ベッドから転げ落ちながら、菊は菖蒲に這いずりよる。そこで宗一郎も気付く。菖蒲が脂汗を浮かべ、お腹を押さえて床に倒れている事に。
「菖蒲、しっかりしてください、菖蒲!」
自分も血塗れになりながら、菊は菖蒲を抱き起こす。狼狽する姿は、憎い相手の娘へ向けるものではなかった。
「お兄様、早く救急車を!!」
菊の怒声に圧倒され、宗一郎は青ざめて硬直する。菊はその姿に舌打ちを漏らすと、血で汚れた手を服で拭って携帯を手にした。