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ただ一つの一対
第8章 聖夜の狂乱
「お目覚めですかい、若様」
いつの間にか気を失っていた菊は、病院のベッドの上で目を覚ます。遠い過去を思い出させるような静寂に、無機質な天井。まだ虚ろな目を逸らせば、菊が小さな頃から世話になっている老医師と目が合った。
「全く、そんなに大怪我をしているなら、二台救急車を呼べばよかったのに。呼んだ方が呼ばれた方より重傷とは、今年最後の大笑いですぞ」
「……そうだ、菖蒲は!? 菖蒲は無事なんですか!」
「叫ぶと傷が開きますぞ。あの娘っ子は大丈夫、母子共に元気です」
老医師の言葉に、安堵すると共に疑問を抱く。なんの冗談だろうかと、すぐに聞き返した。
「母子共に……って、誰かと勘違いしていませんか? 僕が訊ねたのは、菖蒲の具合ですよ」
「ありゃ、若様知らなかったんですかい。あの娘っ子、妊娠してますぞ」
聞き間違いではないと、老医師は菊に告げる。そして驚愕した菊の表情を見ると、にこやかに頷いた。
「安心しなさい、間違いなく若様の子ですよ。あの娘っ子、気を失っていてもうわごとで若様を呼んでいましたから」