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ただ一つの一対
第8章 聖夜の狂乱
 
 片倉は銃を額から首筋に下ろし、冷たい銃口で愛撫する。そして簡単にはだけてしまう病衣を開くと、左の乳首をそれで弄った。

「あなたは私の思想の自由を与えた。表にさえ出さなければ……頭の中でなら、誰を殺しても許してくださった。若……私が空想の世界であの娘を、菖蒲を何回殺したかご存じないでしょう」

「菖蒲はお兄様の血を引きますが、一文字とは縁のない娘です。恨むのは筋違いでしょう」

「いいえ、正当なる権利です。あの娘は、私が若から与えられた唯一の権利を奪い去ったのですから」

「菖蒲が……? 何を言っているんですか、あの子はあなたを慕いはしても、自由を奪う真似などしません」

 すると片倉は、銃であばらを殴りつけ菊の言葉を遮る。菊は痛みに顔を歪めるが、片倉はそれ以上に苦悶の表情で、視界すら涙に滲ませた。

「あの娘を愛したせいで、あなたは私を抱かなくなった。いえ、私だけではありません。あの娘だけが唯一で、他の誰もあなたに触れる事は出来なくなりました。たとえ現実がどうでも、あなたに抱かれている瞬間だけは、私はあなたの女であるという夢を見られたのに」
 
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