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ただ一つの一対
第1章 失恋した男
「だって、二人は恋人……なんでしょ? だったら、ご飯くらい用意しないと……」
バスタオル一枚で部屋の中を歩ける仲といえば、菖蒲には一つしか思い当たらない。だが菊はきょとんとした顔で、平然と答えた。
「片倉は僕の秘書ですよ? 初めて紹介した時、そう話したじゃないですか」
「それは、そうだけど」
「僕には恋人なんていませんよ。神が存在するとすれば、きっと神が決めたのでしょう。僕は、子孫を残してはならないと」
余裕のある大人の笑みに、微かに混じる寂しさ。コーヒーを飲み口を閉じてしまった菊を補足するように、片倉が口を開く。
「若はついこの間、長年大切にしていらした方から振られてしまったのです。今日はこのように多少荒れた態度を取るかもしれませんが、許してやってください」
「片倉、余計な事を言わないでください」
「隠し事をして不信を抱かれるなら、正直に話した方が得策でしょう。姫様は、傷心の若をからかうような方ではありませんよ」
片倉が視線を送れば、菖蒲は大きく頷く。立ち上がって拳を握り、菊へ力説した。
「そうだよ、叔父さんが傷ついたなら、あたしが慰めてあげる! だから、元気出して?」