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ただ一つの一対
第8章 聖夜の狂乱
「若、あなたが悪いんです。あなたが完璧に私の心を支配しなければ、私はここまであの娘を憎まなかったでしょう。あなたは全てを持っている、持たない者にとっては、それがたまらなく憎らしく、狂おしく愛しいのです」
「……片倉」
髪を掴んだ菊の手が、片倉の頭を撫でる。視線を合わせた菊に、先程までの怒りはなかった。
「あなたはいつから、夢を見るようになったんですか?」
「馬鹿な質問ですね。女は、いつだって夢を見る生き物ですよ」
菊は片倉の体を引き寄せ、唇を重ねる。憎いと語る唇は言葉に反し、菊を受け入れた。そのまま体を倒し上になっても、片倉は身を委ねたまま。母の温もりを得た子どものように穏やかだった。
「恋という感情は厄介なものですね。平素穏やかに生きているつもりで、こんなに矛盾を起こしてしまうのですから。僕も……周りが見えていませんでした」
菊は片倉の長い足を掴み、広げる。触れていないにも関わらずそこはもう濡れていて、すぐにでも入れられそうだった。
「ですが……僕は菖蒲を失いたくありません。あなたが恋い焦がれるのと同じように、僕は彼女を愛しているんです」