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ただ一つの一対
第8章 聖夜の狂乱
高いフェンス越しに広がるのは、朝日に照らされ始めた街の姿。夜はすっかりなりを潜め、月も見当たらない。
頭を上げると、血が足りないせいかめまいがする。菊はなんとか踏みとどまり、病院の中へと戻る。
老医師に見つかれば、傷を増やした事を咎められ、今度こそベッドに縛り付けられてしまう。そうなる前に菊が向かったのは、兄・宗一郎が連れて行かれた霊安室だった。
中へ入れば、目に入ったのは殺気立った部下達の輪と、少し離れた位置で見守る左月。宗一郎はその中央で、縛られ横たわっていた。だが、怪我をした様子はない。
「さすがは左月ですね。お兄様に傷が一つでもあれば、どう罰してやろうかと思っていたのですが」
「……坊ちゃん。肩の血はなんなんですか? どうして病院で治療を受けて、傷が増えているんです」
「まあ、生きていればそんな事もあります。僕はお兄様と話がありますから、全員席を外してください」
「しかし、若! いくら兄とはいえ、宗一郎様は若を殺そうとしたのです。二人にする訳には参りません」
「縄は解かず話しますから。それならば襲われずに済むでしょう」