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ただ一つの一対
第8章 聖夜の狂乱
「初めに、どうせ信じてはくださらないでしょうが、話しておきます。僕はお兄様に復讐するために、菖蒲へ近付いたのではありません。本気で、愛しているんです」
「……ふざけるな! 何が愛だ、菖蒲はお前の姪なんだぞ!? 本気なんて、有り得ないだろう!」
「そうですね、法で許される行為ではありません。お兄様から若頭を押し付けられていなかったら罪悪感に負けて、とても実行は出来なかったでしょう。感謝していますよ、僕の倫理が崩壊したのは、お兄様がきっかけなのですから」
宗一郎は鋭い目で睨み、縄を引きちぎろうともがく。だが菊は冷めた目をしたまま、宗一郎へ宣言した。
「ですが、お兄様とて人の倫理を咎められる立場ではないでしょう? 自分が逃げるために、あなたは何をしましたか? 同腹の弟を見捨てただけでなく……あなたのために組長まで撃った恋人まで、利用したでしょう」
「それは……」
「片倉――いえ、美和子へ共に来いと言い残したなら、組員は捜索を二人が集合しそうな場所へ絞ります。あなたはそれを利用し、美和子を囮にして逃げた。待たされた美和子がどんな思いを抱くか、捕まった後どうなるかも、容易に想像出来るのに」