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ただ一つの一対
第8章 聖夜の狂乱
激昂したかと思えば、菊は咳き込み頭を抱える。目はかすみ、手を当てれば額は明らかに熱かった。だがそれでも菊は、怒りを収められなかった。
「お優しいお兄様は事情があったのだから仕方ない――そう思い込まないと、僕も醜い衝動に飲み込まれてしまうんですよ。あなたが人格者だと誤魔化す事で、僕は公平を心掛ける冷静な自分を保っていたんです。ですが、それももうおしまいだ」
「殺すなら殺せ、どうせお前はヤクザだ! あの醜い親父の、汚い血を引く男なんだ!」
「その言葉、そっくりそのまま返しますよお兄様。では僕は、汚い血を引き継ぐ次代の組長として、ふさわしい務めを果たしましょう」
菊は宗一郎の前にしゃがむと、明らかに侮蔑した瞳で見下ろす。
「僕はこれから、あなたの可愛い一人娘を拐かします。戸籍を共にする事は出来ませんが、一生僕の元で囲い、子を孕ませましょう」
「馬鹿も休み休み言え、警察が来れば、そんなもの一発で逮捕だ。余罪も出てきて、お前は刑務所から出られなくなるだけだぞ」
「ええ、菖蒲という動かぬ証拠を手元に置いておくのですから、いつか捕まるでしょうね。しかし警察に僕が捕まれば、その経緯は流石に組長の耳へ入ります」