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ただ一つの一対
第8章 聖夜の狂乱
 
「っ!!」

「お兄様が姿をくらまして数十年、もう積極的に探しはしていませんが、居場所が分かれば別です。ましてや僕が逮捕された後なら、後継者として強く求められるでしょう。さらに言えば、今は昔と違い技術も発達し、捜索の方法に幅が広がっています。昔と同じように逃げられると思わない方がいい。一文字組は、機械に強いですよ」

 菊は皮肉な笑みを見せながら、宗一郎の拘束を解いていく。だが自由の身になり上半身を起こしても、宗一郎は動けなかった。

「さて、お兄様は僕から菖蒲を取り戻し、妻も同時に守りながら父の手から上手く逃げられますかね。弟と恋人を使い捨てて手に入れた自由を、今度は何も失わずに守れますか? もちろん僕も大人しく捕まる訳にはいきませんから、刃向かうつもりなら全力でお兄様を妨害しますよ」

「お前は……鬼だ! なんでそんな酷い事を企めるんだ、人の心がないのか!!」

 宗一郎に残された選択肢は、実質二つだ。菖蒲を諦め、今の生活を守る事。しかし菖蒲が姿を消せば、何も知らない菖蒲の母親が探そうとするのは間違いない。説得するためには、宗一郎の口から「菖蒲を探すな」と口にしなければならないだろう。
 
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