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ただ一つの一対
第9章 ただ一つの一対
 
「あなたはまだ16歳なのですから、体調不良の際に、妊娠の可能性を頭に浮かべられなくとも仕方ありません。謝るのは、僕の方です」

「ち、違うの叔父さん! あたし、叔父さんを責めたいんじゃないよ? だってあたし、こうなりたいって思ってた。叔父さんの子ども、欲しかったの」

 菖蒲は慌てて立ち上がり、拳を握って力説する。菊はそんな菖蒲に笑みをこぼすと、手を伸ばした。

「僕が謝りたいのは、あなたを妊娠させた事ではありません。それに気付かないほどあなたを遠ざけてしまった事です」

 菖蒲はすぐに手を握り、座り直す。真剣な菊の目に、菖蒲は胸を高鳴らせた。

「僕はいつだって誰かを思いやるような振りをして、向き合おうとするあなたから逃げていました。本当は怖いくせに、大人の顔をして……醜い自分が、情けない」

「叔父さんが気にしてるのは、血の事? あたし、そんなの関係ないよ」

「いいえ。僕が――一文字組という、暴力団の若頭である事です」

 暴力団という言葉に、菖蒲の指がかすかに反応する。が、すぐにそれは強く握り返された。

「……だから、お父さんはずっと叔父さんを怖がっていたんだ」
 
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