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ただ一つの一対
第9章 ただ一つの一対
「僕とお兄様は、一文字組の組長の息子として生を受けました。しかし、お兄様は反社会的な行為を嫌い、絶縁して家を出たのです。僕は特に家が嫌いではありませんでしたし、むしろ家を継ぎたいと思っていましたので、そのまま極道である事を選びました」
「あれ、でも叔父さん、入れ墨ないよね? ヤクザの人って、背中に仏様とか彫ってるんじゃないの?」
「まあ、入れ墨を入れる人は多いですが……温泉に入りにくくなるじゃないですか」
「お、温泉?」
「ええ、ですから不便でしょう?」
菊は特にふざけた様子もなく、至極真面目に答えている。その様子だけで、菊が風変わりな極道であるという事が菖蒲にも分かる。一般的に想像するヤクザのイメージで聞いてはならないと、菖蒲は気を引き締めた。
「まあ、入れ墨はともかく。僕は兄と正反対の道を選びましたが、兄弟としての情を捨てた訳ではありません。それで今まで交流を続けていましたが……あなたとこうなった今、今までと同じようには生活出来なくなりました」
菖蒲は顔を強張らせながら、菊の言葉を待つ。許されない関係だから離れたい、そう改めて言われても、おかしくはない状況なのだ。