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ただ一つの一対
第9章 ただ一つの一対
 
「そ、そうなんですか?」

「減退する場合もあるから、結局は人それぞれですがな。まあ、後で看護師から妊娠中の心得を聞いておくといい。今はひとまず、このやんちゃな若様を縫い付けてやらんとなりませんからな。ほら若様、部屋に戻りますぞ」

 老医師が菊の傷口を叩けば、菊は顔を歪める。不満そうに睨まれても、老医師は知らん顔をしていた。

 菊がベッドから降りると、菖蒲は隣に立ち腰に手を回し支える。

「菖蒲?」

「叔父さん、その体じゃ歩くの大変でしょ。あたし、部屋まで一緒に行くから」

「しかし、菖蒲だって安静にしていなければ。あなた一人の命ではないんですよ」

「一晩寝たら楽になったから大丈夫。それに、運動が絶対駄目って事はないでしょう?」

 菖蒲が訊ねれば、老医師は首を縦に振った。

「むしろ今時は、正しく適度な運動が安産のため必要と言われていますな」

「だって、叔父さん」

「……無理はしないでくださいね」

 菊は菖蒲に支えられながら、足を踏み出す。一人では辛い一歩も、支えられながらならば止まらずに進める。隣に立ってくれる存在の有り難みに、菊は顔を綻ばせた。
 
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