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ただ一つの一対
第9章 ただ一つの一対
折れたあばらや撃たれた肩が三日やそこらで治るはずはないが、新年に向けて菊は仕事に追われている。大晦日を前に、菖蒲に合わせて退院するのは、ほぼ無理矢理だった。
「では先生、お世話になりました」
「全く、そんな体なら少し休めばいいだろうに……若様、くれぐれも傷を増やすような真似はよしなさいよ。それとお嬢さん。体を大切にな」
菖蒲は頷き素直に返事をするが、菊は口を尖らせ文句をこぼす。
「僕が年越しに顔を出さなければ、無能が調子に乗るから仕方ないんです。左月も片倉もいない今、派閥も混乱しているでしょうし」
「だからといって自分がまた倒れたら、鬼も大爆笑ですぞ。面倒だからといって、薬を飲まずに生活しないように」
「体調管理くらい一人で出来ます。まったく、いつまで人を子ども扱いするんですか」
口うるさい老医師に菊は辟易しているが、それは信頼出来る人間の忠告である。菖蒲は、極道でも変わらない人間の繋がりに安堵感を覚えていた。
が、一方で引っかかる事もある。挨拶を済ませ、菊の部下が運転する車に乗り込むと、隣に座った菊へ訊ねた。