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ただ一つの一対
第2章 少女は夢を見る
一文字 宗一郎が組長の嫡子として屋敷へ現れたのは、片倉――当時は吉澤美和子と呼ばれていた少女が、中学生になった年の事だった。柄の悪い組員と、その匂いを引き継いだ子息しか見た事のない美和子にとって、宗一郎は初めて会った堅気の同級生だった。
初めて会った日、宗一郎は屋敷の中庭で空手の型を練習していた。美和子にとって拳とは、他人を殴り支配するための手段だった。だが空を切り、真っ直ぐ打たれる宗一郎の拳には、血の匂いも力の誇示もなかった。
「……綺麗」
見た目は、そこらの男と変わりのないむさ苦しい少年だった。しかし清廉な気配は、隠しようがない。ふらふらと宗一郎の元へ歩いていくと、美和子はためらわずに声を掛けた。
「宗一郎様、ですよね?」
宗一郎は、声を掛けてきた少女に戸惑い、一歩下がる。初々しい反応がますます面白くて、美和子は自分から宗一郎の手を握った。
「私、吉澤美和子です。よろしくお願いします、若」
だが、宗一郎は若と呼ばれると、憂いの影を落とす。名誉な事なのにどうしてだろうかと、美和子は首を傾げた。